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もうけの落とし穴

共同出願特許の効力範囲の落とし穴

有名企業A社と共同で、特殊な商品を開発した製造会社B。特許も共同で出願した。B社が製造販売して数ヶ月、製造ラインを持たないA社が、下請けに安く作らせ販売。 え?そんなこと勝手にしてもいいの??<平成21年度制作>

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どんな落とし穴だった?

大きな企業と一緒に技術開発を行い、特許を共同で出願した。その際に、特段の契約は結んでいなかったが、相手方である大企業は、特許製品の製造ラインを持っていなかったので、当方の製品を大企業へOEM供給できると期待していた。しかし、大企業の方では、下請会社で安価大量に製品を製造させ、当方の製品は市場でも全く売れなくなってしまった。

この落とし穴に落ちないために

特許法第73条第2項は、「特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。」と規定しています。従って、契約できちんと決めていない場合は、共有者は基本的に競争関係にあるライバル同士となるということになります。
ところで、同条第3項では、「特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。」と定めています。そうすると、本件のような場合、大企業の方では自ら生産せず、下請に製造させているので、共有者の同意なく他人に実施させているということで、第3項に違反するのではないかということが問題となります。この点に関して、仙台高裁秋田支部の判例は、「有体物の使用、収益が有限であるのに反し、無体財産の使用(実施)は観念的には無限であるが故に、無体財産権である実用新案権の共有者の一人は、他の共有者の実施の態様、持分の如何に拘わりなく、これを実施して収益をあげることができるのであって、自ら実施しないで他人に実施させることも、共有者の計算においてその支配・管理の下に行なわれるものである限りにおいては、共有者による実施というべきである」として、侵害にあたるとした秋田地裁の判決を覆して、侵害の成立を否定し、最高裁もこれを支持しました。事案毎に違いはあるでしょうが、特許権を共有することとなる場合は事前に契約を結んでおかなければ、大変な目にあう危険性があるので注意が必要です。

山本英雄

弁護士

加藤・山本法律事務所

昭和62年弁護士登録、加藤・山本法律事務所に所属。企業の監査役のほか、特許に関する講演やセミナーなど、知的財産に関し法的観点からの支援を行う。