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もうけの落とし穴

実用新案の権利を主張する時の落とし穴

実用新案を取得し、満を持して発売した画期的な製品。ライバル企業から模倣品が出たって「実用新案権」さえあればダイジョウブ♪なはずが・・・、「実用新案技術評価書」って何? 「権利の有効性が無効」って何~<平成20年度制作>

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どんな落とし穴だった?

自社で新たに開発した製品A。実用新案登録出願を行って「実用新案権」も取得し、製品Aの売上げは順調に伸びていきますが、ライバル企業が模倣品を販売し始めます。この模倣品は、自社の実用新案権の権利範囲に抵触すると考え、ライバル企業に警告しようと、専門家(弁護士・弁理士)に相談。すると、実用新案権の権利行使のためには、「実用新案技術評価書」を提示して警告することが必要であるとのこと。特許庁に対して、実用新案技術評価を請求し、返ってきた「実用新案技術評価書」の内容は、「権利の有効性について否定的」なものであり愕然とします。このまま警告を行うと、むしろ実用新案登録が無効にされて、逆に損害賠償を請求される恐れがあることから、警告を断念することに・・・。

この落とし穴に落ちないために

「実用新案登録出願」では、「特許出願」のような出願審査請求制度はありません。
特許のように、実体審査(新規性や進歩性など)を経ず、方式審査(決まった手続き)と一定の基礎的要件のみが審査されて、短期間で登録されます。
この点で実用新案は、ライフサイクルの短い製品の保護に適した制度であるといわれています。
よって、実際に取得した実用新案の権利行使をする場合には、「実用新案技術評価書」を提示して警告しなければなりません。

この「実用新案技術評価書」は、設定登録された「登録実用新案」の権利の有効性について、特許庁の審査官が先行技術調査を行って作成するものです。審査官による先行技術調査の結果、新規性や進歩性などを否定する資料が見つかった場合には、権利の有効性について否定的な内容の評価書が発行されます。
その場合も、侵害者に対して警告を行うことは可能ですが、その後に無効審判を請求されて権利が無効になってしまうと、逆に損害賠償を請求される恐れがあります。 

つまり、実用新案は、登録されたというだけでは重要な意味を持たず、権利の有効性について「“肯定的な”実用新案技術評価書」が得られて はじめて、「使える権利」になるということができます。実用新案登録出願の際には、先行技術調査を十分に行うとともに、実体審査を経てから登録される特許出願との得失をよく検討する必要があります。

信末 孝之

弁理士

三原・信末特許事務所

特許・実用新案・意匠・商標の権利化や侵害問題に精通。企業の知的財産戦略策定の支援も行う。技術分野は、生活用品、一般機械、運輸、土木建築、制御、メカトロ、コンピューター(ハード)、ソフト、情報処理、通信、電気・電子回路、ビジネスモデルなど。