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もうけの羅針盤

自社技術 × 大手企業の技術 → 新技術開発へ~共創で新規事業の創出を加速~

自社が保有する技術と大手企業の技術を組み合わせて新たな開発に成功。
大企業の技術が地域企業の課題に一緒に取り組む「共創」。
大企業と中小企業のイノベーションはますます期待されています。

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この事例の企業

イナバゴム株式会社技術開発センター

鳥取県鳥取市千代水1丁目63番地

https://www.inaba-rubber.co.jp/index.html

代表センター長 河原宏太郎

開発ストーリー

自社技術 × 大手技術 → 新技術開発へ「共創」

鳥取県鳥取市に工場を持つ「イナバゴム株式会社」。主に精密ゴムの成形や感圧導電センサーの開発・製造を行っている。そのイナバゴムが、ゴルフのパターに圧力センサーを装着してグリップの握り圧を計測するシステムの開発に成功した。

その開発に欠かせなかったのが大手企業「パナソニック」が保有する技術だった。
握る、掴むという動作は、三次元の動きであり、力を伝えるというのはとても計測が難しい技術で、イナバゴムは開発段階で大学と研究したものの、なかなか思うような成果が出なかった。
そんな時、イナバゴムの河原所長は、鳥取県産業振興機構の技術開発・知財を総合的に支援する山本センター長に「知財ビジネスマッチング会」に参加しないかと誘われた。そのマッチング会で河原所長は、パナソニックの開放特許技術を目にし、「この技術は絶対に使える。ゴムと組み合わせれば、面白いものが出来る。」と直感。その一方で、大手企業がそう簡単に技術を提供してくれるのか?という疑問も感じていた。

しかし・・・。イナバゴムの河原所長は、パナソニックの担当者西田さんと話をして、疑問は消え去った。パナソニックは、使ってもらうために公開しているのであって、自社のみの利益の追求をしない雰囲気だった。

河原所長は、パナソニックの担当者から「パナソニックの技術が活きる分野・モノに使ってほしい」という意味合いで話をいただき、また、技術の担当の方にも「技術を活かせるような場面に使っていただきたい」という話もいただいた。パナソニックの技術と自社の技術を掛け合わせれば、新たな技術が開発できる。と河原所長は、確信したのだ。

イナバゴムとパナソニックをマッチングうまくできるようサポートしたのが、鳥取県産業振興機構の山本センター長だった。山本さんは、「中小企業と大企業との知財に関する経験や知識には開きがある。そこをどうやって埋めるかというところにひとつのハードルがあって難しい面がある。」と話す。そういった知財的な側面、契約に関する側面など、間に入って、中小企業にとっても大企業にとっても良いマッチングになるようにするのが、支援機関としての重要な役割だという。

新たな技術、価値を創造する「共創」。中小企業と大企業のイノベーションは、ますます期待されている。

成功ポイント

大きく変わってきた大企業の共創とオープンイノベーション

大企業と中小企業のオープンイノベーションの考え方は大きく変化してきている。

私が特許流通アドバイザーとして活動をしていた20年前は、大企業は特許開放は行っていたものの、『共創』の概念はほぼない状況で、保有する技術やサンプルの提供など、協力を得るには時間もかかり、なかなか中小企業が商品化することは容易でなかった。その後、特許流通政策が自治体に移行し川崎モデルが注目された2014年から数年後・・・

2018年頃から再び、大企業の開放特許への取り組みに、自治体が注目するようになった。いくつかの大企業は手弁当で保有する知的財産の活用を促進するようになっていった。この頃、私も広島県でマッチングイベントを行っていました。

大きな転換点は、複数の大企業が地域社会への活性化へ貢献することを目的として、【中小企業と互いに持つ知識や技術を出し合い、新たな価値を創造し、中小企業の課題を解決しよう】と動き始めたことにある。

本事例の大きなポイントは、特許技術を提供するパナソニックIPマネジメント社が、共創の成果をイナバゴムの商品・事業に帰属させたことにある。共創視点の真のオープンイノベーションに移行する画期的な取り組みへと転換が進んだのだ。

このような画期的な取り組みは、もちろん容易に成立するものではない。成功の大きなポイントは、鳥取県産業振興機構の山本センター長のプロデュースである。山本センター長は、技術移転・開発契約において技術とビジネスに理解の深い第3者として調整を図り、商品化・事業化へ適切なプロデュースを行った。この機能が大企業と中小企業のオープンイノベーションを成功させたのだ。

大企業の技術が地域企業の課題に一緒に取り組む『共創』。それを仲介・活性化させる地域の中核を担う支援機関。このような活動が、大企業と中小企業のイノベーションの可能性を広げることに繋がる。

2025年は日本のオープンイノベーションの転換期。本事例のように、企業が保有する優れた知的財産を活用し合い、大企業と中小企業が新たな技術、新たな価値を創造する『共創』。その進化に期待したい。

※もうけの花道では2018年にも鳥取県のジーアイシー社の開発を取り上げている。こちらも参考にしてほしい。

代表取締役社長 桑原良弘 2級知的財産管理技能士・もうけの花道アンバサダー

代表取締役社長桑原良弘

2級知的財産管理技能士・もうけの花道アンバサダー

ディスプロ株式会社

中国経済産業局特許流通アドバイザーとして、地域経済政策の活性化と開発テーマの事業化、知的財産活⽤を⽀援。現在、中堅製造業の顧問や地域⽀援機関と連動した企業のビジネス開発⽀援を⾏っており、多くのビジネス開発・知的財産の戦略構築・活用展開・商品開発の実績を持ち、事例研究も行う。