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地域ブランド

地域団体商標登録後も地道なPRでブランド化に成功!祇園パセリ

出荷量低下・生産農家の減少など、衰退の一途をたどっていた「祇園パセリ」を復活に導いた地域団体商標取得からブランド化までの取り組み〈令和5年度作成〉

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地域ブランド化ストーリー

地域のお宝野菜「祇園パセリ」

一般的なパセリと比べ、葉の縮みが細かく、食べても、食感が柔らかく苦みも少ない「祇園パセリ」。
昭和20年代から、祇園地区で生産が始まり、最盛期には約80軒もの農家が軒を連ねました。
この地区で代々引き継がれる祇園パセリの種は、一般には販売されないため、ここ祇園地区だけで大切に育てられてきたのです。

出荷量低下・生産農家の減少による存続の危機

戦後から始まったパセリ栽培は、1999年頃をピークに出荷量が年々減少。
生産農家の数もピーク時と比べ約3分の1に減るなど、存続の危機に瀕していました。
その原因はPR活動の不足による、他のパセリとの差別化ができていなかったことにあると広島市農業協同組合(パセリ部会副会長)の庄田さんは言います。
中央市場で競りにかけられるも、一般的なパセリと同じ評価のため取引き価格は不安定。
収入面でも不安が拭えず、生産者の離脱につながりました。

商標権取得で復活の兆し!

まず広島市農業協同組合(パセリ部会副会長)の庄田さんが取り組んだのが、広島市が取り組む地産地消プログラム「ひろしまそだち」に申請・登録すること。
自治体の農産物の登録制度をフル活用し、アピール。その他にも声がかかった商談会には全て参加した結果、徐々に広島オリジナル野菜として認知されるように。しかし、まだまだ課題解決には道半ば。
そんな時に庄田さんが出会ったのが、地域団体商標登録制度。着想から約3年。広島県の野菜で2番目となる地域団体商標の登録が決定。
「祇園パセリ」と名前を付けたことで、ブランドとしての信用度が上がり、取引先との価格交渉も以前より発言権が上がったと庄田さんは言う。

地域団体商標取得のメリット

地域団体商標制度とは、「地域ブランド」の保護を目的とし、[地域の名称]+[商品/サービスの普通名称]により構成された商標権取得の制度のこと。通常では権利取得が困難な商品名/サービス名であっても権利化が可能となります。
メリット
① 「独占的に使用できる(ライセンスも可能)」
② 「信用度/ブランド力の向上」
③ 「取得した組合等団体の組織力強化」

商標登録後も積極的に続けるPR活動

地域団体取得後も、広島市農業協同組合(パセリ部会)はPR活動を続けます。
地域のレストランにも祇園パセリを卸し、お店オリジナルメニューをシェフが考案&お店で出品。ただの飾りではなく、主役としてのおいしさをアピールすることで新たなファンを増やしています。
また、新たなメニューを考案。さまざまなイベントにキッチンカーで出店し、祇園パセリのスムージーを提供しているんです。ほぼ毎回売り切れるほど好評だそうで、伝統野菜の新たな楽しみ方を積極的にアピールしています。

成功ポイント

「祇園パセリ」は地域団体商標制度を戦略的に活用し、地域農産物のブランド化に成功し経済的効果を生み出した好事例です。

地域団体商標制度とは「地域ブランド」の保護を目的とし、[地域の名称]+[商品/サービスの普通名称]により構成された商標権取得の制度であり、通常では権利取得が困難な商品名/サービス名であっても権利化が可能となります。ただし、いくつかの条件があり、「地域の名称と商品/サービスに関連があること」、「一定の範囲の需要者間である程度有名であること」などをクリアしなければなりません。そして、取得された地域団体商標は取得した団体の構成員にて使用することができます。
なお、地域団体商標を取得するメリットとしては、「独占的に使用できる(ライセンスも可能)」、「信用度/ブランド力の向上」、「取得した組合等団体の組織力強化」などです。

「祇園パセリ」がブランド化に成功したポイント

① 対象となる農産物の品質

一般的なパセリは飾りとして用いられることが多いですが、祇園パセリはそれらとは異なり、葉も柔らかく美味しく食べられます。

② 地域団体商標の取得

ブランド保護の手段のため、権利化(保護される)までの期間や模倣品対策のため、地域団体商標を選択されました。

③ 地域団体商標の活用

商標を取得しただけではブランドは育ちません。ブランドを育成するには商標権を有効に活用することが重要です。そのため、祇園パセリの販売にあたっては必ず商標名が入ったパッケージに入れるというルールがあり、他のパセリと明確な区別化が図られています。

④ 積極的なアピール活動

ホームページ/展示会/宣伝カー等を使った宣伝、それに加え飲食店での料理での利用、大学連携による新たなレシピ作りなど、積極的なアピール活動を行っています。このようなアピール活用ではブランドを明確に打ち出すことが必要であり、取得した地域団体商標がその役割を担っています。

これらの活動を地域を上げて継続しておこなうことは容易なことではありません。しかし、「祇園パセリの良さを多くの人に分かってもらいたい!」という祇園町農事研究会パセリ部会の方々の強い想いと情熱があってこそ成し遂げられたと感じます。
その結果、「祇園パセリ」は見事ブランド化に成功し以下の成果を上げています。

① 販売価格の安定化
② 高級パセリとして首都圏等への販売拡大
③ 祇園パセリを使用した様々な料理の普及
④ 生産関係者のプライド向上
⑤ 地域関連団体団の結束力向上

これらがビジネス成功のサイクルとして回っており、これからも祇園パセリの益々の成長が期待できます。

増田 尚嗣

公益財団法人 ひろしま産業振興機構 知財戦略マネージャー

36年間企業での知的財産部に所属し、特許、意匠、商標、著作権、知財教育、知財管理など広範囲の知財業務を経験。
2022年より公益財団法人ひろしま産業振興機構にて知財支援を担当し、知財総合相談、知財人材育成(知財講座の開設)、外国出願補助金の事業を通じて中小企業での知財経営実践を支援。