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もうけの落とし穴

共同研究における契約トラブル

大企業と中小企業が共同研究を行うことになった。共同研究が始まる前に、契約書を交わすこととなったが、中小企業にとって、共同研究の権利の帰属は、納得できない内容だった。〈令和3年度作成〉

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どんな落とし穴だった?

大企業A社(アグリマシナリー)は、中小企業S社(沢田電研開発)の保有する革新的な蓄電技術を自社の農機具に実装したいと希望し、共同開発を打診した。A社の法務担当から共同開発にかかる契約内容の説明を受けたS社の社長は、開発成果の帰属に疑問を感じつつも、A社との関係構築を重視するあまり、その場で契約書に署名をしてしまった。結果として、共同開発の成果はすべてA社に帰属することになり、S社は大切なノウハウを無償で提供してA社の新製品の立ち上げに協力しただけに終わった。

この落とし穴に落ちないために

契約書は当事者の権利義務を規定する、いわば「ビジネスの定義書」である。契約の巧拙によって、ビジネスは上手くいったり/いかなかったり、利益が上がったり/上がらなかったりする。契約書から発生する権利義務を的確に把握して、経営判断をすることが重要であるが、そのためには契約書を読みこなす能力が必要である。法務部などの部署がない中小企業において、そのような能力を担保することが難しいとしたら、契約締結をする際には弁護士等のレビューを受けることが重要である。

企業によっては、この例のように大企業との関係構築のために事を急いだり、過度な妥協をしてしまうことがある。しかし、契約は一旦締結すると長い期間ビジネスに影響を及ぼすものであり、やり直しがきかない性質を有するのであるから、慎重さとコスト投入が必要である。ちなみに、契約書のレビューは数万円~十数万円程度であるが、これをおざなりにして紛争になると2桁異なる損失となるケースもある。

オープンイノベーションに関する契約のあり方については、特許庁運営にかかる下記サイトに詳述されている。
オープンイノベーションポータルサイト:
https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html

契約に関する鮫島弁護士のインタビューはこちら

以下のサイトもご参考ください。

〈中小企業庁〉知的財産に関するガイドライン・契約書のひな型について
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/chizai_guideline.html

〈公正取引委員会〉スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/nov/201127pressrelease_2.pdf

鮫島 正洋

弁護士・弁理士

内田・鮫島法律事務所

1963年生まれ。東京工業大学金属工学科卒。1992年に弁理士登録。1999年に弁護士登録。株式会社フジクラ・金属材料開発部、日本IBM株式会社・知的財産部、松尾綜合法律事務所を経て独立。 知財弁護士・弁理士として内田・鮫島法律事務所を設立。特許訴訟・ライセンス交渉・新リーガルサービス等を専門に活躍中。東京工業大学特任教授。主な著書に「特許戦略ハンドブック」(編著・中央経済社)など。