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もうけの羅針盤

社会課題解決に向けた新規事業創造と経営デザインシート

経営者として素人の看護師が、直面した開設資金の調達。従来の金融機関の融資基準では十分に受けられない、という大きな壁を乗り越え、4つの金融機関から無担保融資に漕ぎつけた。そのきっかけは、経営デザインシートだった。〈令和4年度作成〉

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この事例の企業は

合同会社 イノチテラス

静岡市駿河区南安倍3丁目12-1 ガーデニアガーデン南安倍2階

https://nursing-agency-5048.business.site/

代表代表 浅原 聡子

開発ストーリー

イノチテラスとは

病気や障害に直面した方々が人生の最後までの時間を穏やかに過ごすための施設。

  • ・医療ケア等が必要になっても対応出来る施設
  • ・看護師を24時間配置、少人数に手厚い介護配置
  • ・日差し、風を浴び、五感で感じる環境
  • ・心地よい足元、快適に過ごす足と爪のケア
  • ・ご家族の精神面のケアにも対応

厳しい資金調達。経営デザインが、未来を明るく照らす道筋に!

看護師経験豊富な浅原代表は、病気や障害に直面した方々が人生の最後までの時間を穏やかに過ごすための施設を開設したいと考えていた。
しかし、開設資金はほぼ無く、金融機関に話をしても「ほかにもそんな施設ありますよね?」「夢があっていいですね!」「浅原さんがしなくても良いんじゃないですか?」と言われ、融資は絶対に無理だと感じていた。しかも、世の中にある施設との違いなども理解されず、全く先の見えないトンネルにいるかのようでした。
その状況が大きく変化したのは、友人のすすめで入った中小企業同友会で経営を学び始めたこと。そして、中小企業同友会のセミナーでお会いした日本金融人材育成協会の森俊彦会長でした。
森会長に勧められた「経営デザインシート」。最初は、全く書くことが出来なかったが、何度も何度も書き直し、やっとの思いで書き上げた経営デザインシートは、自分の想いも伝えられ、誰に何を、どんな価値を提供するのか。10年後にどんな未来があるのか。そのために何をしていくべきか。などが明確なものでした。
そのシートを持って金融機関を再度訪ねると、これまで伝わらなかった想いやビジョンを担当者に伝えることが出き、金融機関も前向きに融資の検討だけではなく、様々なアドバイスなどもしてくれるようになった。最終的に、4つの金融機関から無担保での融資に漕ぎつけたのです。

成功ポイント

私は、日本金融人材育成協会の会長を務め、「お金の借り手である、全国の中小企業の存続と発展」を支援してきています。と同時に、「お金の貸し手の地方銀行の取締役や信用金庫の理事」を務めていて、金融機関経営に直接関わっています。
また、経営デザインシートの開発に内閣・知的財産戦略本部の委員として直接携わり、経営デザインシートを活用した「中小企業経営者の思いや夢の実現」にも、関わってきています。
そうした自らの実経験に基づいて、「経営デザインシート活用の勘所は何か」について、「3つ簡潔に述べたい」と思います。

(1)金融機関は「共通価値の創造」に取り組む伴走者です。傍観者じゃないということ。

浅原さんと私のやり取りは 1 年半になります。元々は、私が、静岡県中小企業家同友会主催セミナー「地域金融の未来と中小企業の関係」において、基調講演を行った際に参加されていた方で、浅原さんから、「自らの夢の実現にはお金が必要で、金融機関との関係をどのように作っていけばよいですか」とのご質問をいただき、お答えしたことが、やり取りのスタートでした。

私は、浅原さんの「イノチテラス」のグリーフケアや介護の専門家ではないです。ただ、「素人なので、だから傍観者か」と言えば、そうではないです。
浅原さんの思いに共感して、私の持っている「中小企業支援のノウハウ」を活用して、浅原さんの夢の実現に向けて「伴走する」、キーワードの「伴走する」事はできます。
ほぼ全ての地域金融機関も、HP で「地域の発展に貢献していきます」と、うたっているとおり、傍観者じゃなくて、地域経済発展の伴走者なのです。

金融機関は、銀行免許をもって融資などを行っています。
では、「銀行免許を持って何を行うか」という使命、ミッションは、銀行にとっての「憲法に当たる」銀行法の第一条に、「国民経済の健全な発展に資すること」、これが「使命なんですよ」と明記されています。例えば、静岡銀行さんですと、地域金融機関ですので、「地域経済の健全な発展に資すること」です。
その地域経済は、浅原さんの「イノチテラス」のような中小企業が、数では 99.7%、雇用の 7 割を担っていますので、ずばり、「中小企業の健全な発展に資することがミッション」ということです。単に、お金を融資するのみならず、「中小企業が健全に発展していく伴走者になる」ということがミッションです。
中小企業が金融機関の伴走によって存続・発展していくと、金融機関にとっても地域経済がしっかりするので、金融機関の存続・発展とも表裏一体だということで、「共通価値の創造」と、言われています。

(2)無形資産、目に見えない価値あるものを可視化して「共通価値の創造」を実現するための「共通言語」が経営デザインシートです。

浅原さんは、看護師としてグリーフケアの経験は豊富。ほぼ全て知的財産です。
ただ、浅原さんの知的財産は、「特許権のように権利化されて可視化されたもの」ではなく、看護師としてグリーフケアに長年携わってきた経験と、グリーフケアを行う施設を運営していくノウハウといった目に見えない価値ある資産、無形資産です。

国の作った「知財・無形資産の可視化のツール」が経営デザインシートです。国が作った「共通言語」です。
浅原さんの事業は、「目に見えない無形資産を活用した事業」であることに加えて、「これから」なので、事業実績がない、決算書がない。

ほぼ全てのスタートアップの企業が、「お金の手当で、苦労します」が、経営デザインシートによって、経営者の夢の絵姿を具体的に可視化をする。
そして、バックキャストによる、現状から未来の夢の実現に向けての「移行戦略」が具体的になると、「事業の数値計画も裏付けのしっかりしたもの」となる。
事業者と金融機関が共に歩んでゆくことができる。
この典型的な事例が、浅原さんの「イノチテラス」です。

(3)VUCAの時代にこそ、経営デザインシートが威力を発揮する。

コロナ禍や国際紛争など、不確実性が高く、非連続な状況、これを、米国の軍事用語ですが、volatility, uncertainty, complexity, ambiguity の 4 つの頭文字をとってVUCAという言葉を最近、よく耳にします。 これまでのビジネスモデルを続けていても、突然、赤字や債務超過になりえます。
現状の延長線上に未来はない。現状に積み上げ型の「フォアキャストの思考法が役立たない」ことが幾つも生じています。

こうしたVUCAの環境下では、まさに、自らの「生きる姿」、かっこよく言えば、「パーパス、存在価値という意味では強み」を基に、現状のビジネスモデルは一旦横に置いておいて、企業によって、半年後でも、3 年後でも 10 年後でも、未来の時間軸を引いて、「お客さまに、どのような価値を提供すると、お客様のニーズや課題解決に資することができるか」、それを描いてから、バックキャストする。
この経営デザインシートの思考法と可視化、共通言語のツールを、使いこなして、明るい未来創りに、皆さんが、それぞれの夢や希望を持って取り組んでいく。
それらは社会課題の解決につながるし、金融機関からすると、持続可能な地域づくりに向けた融資、サステナブルファイナンスやインパクトファイナンスの実践ということになるのではないでしょうか。共に明るい未来を創ってまいりましょう。

イノチテラス解説動画はこちら

森 俊彦

一般社団法人 日本金融人材育成協会 会長

東京大学経済学部卒、同年日本銀行入行、金沢支店長、金融機構局審議役などを経て金融高度化センター長。
現在、中小機構中小企業応援士、足利銀行取締役、きらやか銀行取締役、西尾信用金庫理事、住友生命社外委員、マネジメントパートナーズ経営顧問を兼務。
著書「地域金融の未来」(中央経済社)
経済産業省「ローカルベンチマーク活用戦略会議」委員、内閣府「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース」委員、環境省「ESG金融ハイレベル・パネル」委員など。