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もうけの羅針盤

借入過多の会社の未来と金融機関の新発見~資金調達編~

メッキ加工が使われる移動体通信の拡大に伴い業績が右肩上がりの時代、特殊鍍金化工所は大きな設備投資を行っていた。しかし、様々な事業環境の変化の中で業績は一転。その困難を切り抜けるために活用した経営デザインシートによって、金融機関のバックアップを引き出すことに成功した。〈令和3年度作成〉

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セミナーアーカイブ

もうけの花道動画を活用して行った経営者・中小企業支援者・支援機関・金融機関向けに開催したセミナーアーカイブです。

借入過多の会社の未来と金融機関の新発見 ~資金調達篇~

この事例の企業は

株式会社 特殊鍍金化工所

東京都三鷹市井口3-15-8

http://www.tmk.co.jp/japanese/com_pro/index.html

電話番号0422-31-2313

代表取締役 柴 太

開発ストーリー

技術力で創業30年間、右肩上がりの受注から極めて厳しい状況に。

1963年の創業以来、貴金属へのメッキ処理、主に国内通信機器メーカー向けにコネクターなどのメッキ処理加工を行ってきた。創業から30年は右肩上がりで受注も伸び、ポケットベル携帯電話など移動体通信事業に関連するメッキ加工は、会社の業績を安定させる業務になっていた。しかし2000年以降、原材料の価格高騰、環境問題への規制などさまざまな問題に直面し厳しい状況に。クライアントの要求や過剰な設備投資が追い打ちをかけ、気が付けば借入金は、年商の倍にまで達し、資金調達余力は極めて限定的な事態が続いていた。

金融機関の信頼を勝ち取る

経営コンサルティングのマネジメントパートナーズによる経営改善への取り組みにより、芝社長が初めて取り組んだのが【経営デザインシート】。
これまで、金融機関を含めて様々なところから事業計画を作りなさい。と言われて取り組んできた柴社長。しかし、どれも現状の業務の延長線上で考えないと、どこも認めてくれない。というアドバイスばかりだった。
マネジメントパートナーズの清水さんは、そんな考え方では会社をもっとよくしたい、もっと大きくしたいということに繋がらない。思いきって明るい未来にチャレンジしてほしい。
ということで、経営デザインシートの取り組みを始めた。
柴社長は、経営者である自分だけではなく、従業員と一緒に取り組むことが重要。
また、その取り組みにメインバンクである多摩信用金庫も参加してもらい、経営デザインシートの作成を行った。その結果、メインバンクの多摩信用金庫から高い評価を得て、融資の長期対応や短期継続融資などを実現したのです。

経営デザインシートとローカルベンチマークを活用

経営デザインシートで将来像を描こうとするも、なかなか思いつかない。ローカルベンチマークを活用することで、自社の強みやシーズの洗い出しで現状認識でき、自社技術の可能性を発掘することに成功。これまでとは違った分野への挑戦へとつながった。
柴社長は、世の中が5年10年で変わっていく中で、今、出来た経営デザインシートをベースに、よりきちんと見直してその時代に合ったアップデートをして先へ進んでいきたい。と語ってくれた。

成功ポイント

「経営デザインシート」は、過大な債務と返済負担にあえぎながら、将来の希望が持てずにいた特殊鍍金化工所さまにとって大きな希望になったと思っています。
さらに、メインバンクから高い評価を受け、信頼度の向上や融資のリファイナンスに道筋をつけられたことも大きな成果でした。
その作成ストーリーは動画の通りですが、本編では、その裏にあった3つのポイントを挙げてみたいと思います。

まず一つ目のポイントは、「未来に希望を持とう!」ということです。
今回の事例では、さあ事業計画書を作りましょうという初期段階での柴社長の反応は、「事業計画書なんて作っても意味がないんじゃないですか?」
「出来もしない数字を並べるだけで時間の無駄ではないですか?」というものでした。
私は、「柴社長さんは、今までたくさん事業計画書を作らされて来たんだな?」と感じましたが、同時に「それでも、作らないといけません。」と言うことに意味はないなとも感じました。

そして、私は言っていました。
「柴社長、今のことは忘れて明るい未来を考えましょう!」「今までの事業計画書ではなく、社長の思いや未来への希望を詰め込んだ未来計画書を作りましょう!」と。
「そんなの作って金融機関は認めてくれるの?」「今をもとに、2~3%アップの売り上げ計画にしないとどこも認めてくれない、と今までの人からも言われていますよ…」
そう反論する柴社長に対して、私は、「大丈夫です!」「国の内閣府の作った『経営デザインシート』というものがあります。社長の目指す未来を語っていいんです!これは、国も推奨しています!安心してください。大いに未来計画を語りましょう!」
そして、『社長の思いと未来から構想を練る!』という経営デザインシートを見ていただきました。

その時、柴社長の顔がぱっと明るくなったのを鮮明に覚えています。
「これはしっかりした『経営デザインシート』が出来る!」その時、そう確信しました。
柴社長には、未来を語りたい!と言う秘めた思いがあったのです。
そして、私もこの会社にはそれを支える力があると感じていました。

そして、2つ目のポイントは、「従業員さんも含めてみんなで作る!」でした。
ここを賛同していただけるかは、会社の未来を従業員さんと共有できるか否かの分かれ道になると思っていましたが、これはあっさりOKしていただけました。
柴社長さんは結構オープンでした。そして自ら改善する意欲があると感じました。
大概は、専門家に任せようとか、内輪だけで作ってしまおうとか考えがちですが、これでは本当に会社の課題に真摯に向き合うことは出来ません。みんなで議論し、自らの痛いところも認めて改善する!という姿勢が極めて大事です。

そして、『みんなを巻き込む!』にメインバンクも参加してくれたら最高です。これも、メインバンクの多摩信用金庫さんが積極的に取り組んで頂けました。そして、このメインバンクの素晴らしいところは口を出さずに見守ってくれたことです。
そして、3か月に渡る海戦が切って落とされました。

3つ目のポイントは、ローカルベンチマークでした。
当初は、経営デザインシートでの「経営理念」 「未来」 「現在」 「移行戦略」に乗っ取って進めて行こうと考えていましたが、やはり未来構想への『引き出し』は必要でした。「少し発想が甘いかな、もう少し詰められないかな…?」という何となく根拠と自身のない未来が経営デザインシートの右側に出現していました。
そこで、「それでは!ローカルベンチマークで徹底的に現状の強みや弱みを洗い出してみよう!」「未来へとジャンプ出来る引き出しを見つけよう」と同シートをみんなに配ってあれこれ洗い出し作業を始めました。

ここは、意外と楽しい作業でした。商流や業務フロー、4つの視点など自分側だけでなく取引先の立場からも考えてみるということは、今まで当然と思っていたことが結構な強みだったり、普通だと思っていたことが弱みだったり、と新しい発見が続きました。
これは共同作業の効果が良く出た場面だと思っています。
そして、この強み(シーズ)を未来に膨らませよう!と自信のある未来が描けるようになりました。

通信分野一辺倒だった取引業界も医療分野や自動車分野が見えて来たり、当社の自慢の技術力「3元合金めっき」も何に提案して行ったらいいかなども見えてきました。
実は、そこで気を付けたのは、現状の延長線にならないことでした。「この強みは未来に何に化けるんだろう?」(つまり、「それは未来の価値になっているか?」)と言う観点を大事にしたことでした。
そういう作り方の出来るところが経営デザインシートの素晴らしいところでもあり、このシートにすんなり帰れた要因だと思います。
そして、経営デザインシートの流れに沿って、移行戦略の議論へと進んでいくことができました。

以上3つのポイントを上げましたが、使う側の立場によってこの着眼点はさまざまに変わると思います。しかし、未来に魅力を感じてもらうこと、そして現在の移行戦略から考えるのではなく、未来からの移行戦略を考える視点を常に忘れないことがもう一つの大事なポイントだと思います。

経営企画室 室長 清水一郎

株式会社マネジメントパートナーズ

・大手地域金融機関にて支店長、本部各部署に在籍し審査、融資企画、回収等幅広い業務に従事。
・中小企業の課題解決支援を長年実践した経験を活かし、製造業、建設関連企業に出向して経営企画を担当。
・現在はマネジメントパートナーズにて、金融機関と会計事務所をつなぐ事業企画、教育研修等の役割を担う。