エッセイ│てくのえっせい 391

ニーズに応える新ビジネス

顔写真

広島工業大学名誉教授
中山勝矢

3LDKだ、4LDKだと懸命に家を探しても、生活が落ち着いてくると何か足りません。居間では一家団欒、テレビを見ているし、ときには食卓で子どもが宿題をしています。

書斎があれば本や書類が片付くし、煩わされずに資料調べや書き物ができるのにと考え、また遮音室があれば気を遣わずに楽器を楽しめるのにという気持ちも湧いてきます。

 考えてみれば子育ての最中、男親は稼ぎが中心で自宅は単に食事と寝場所、女親にとっては保育と教育の戦場だったので自分のための場所や時間を取る気持ちはなかったのです。

(写真1a,b)
小さくまとまった別室スタイルの小屋
(どちらも建坪10㎡未満 、耐候性・断熱性もよく、内装も洒落ている。)
[㈱植田板金店の提供]
隠れたニーズ

今や人生は長くなりました。中年から新しい生活を営みたい人が予想外に増えています。小さくても別室が欲しいというのは新しいニーズの出現です。

 男性が趣味部屋を求める一方で、スモールビジネスの起業拠点を意図する女性の打診もあるといいます。なかには小屋を拠点に地域活動をしたい人もいると聞きます。 (写真1a,b)

このようなニーズに応えて、昭和52(1977)年創業の板金業㈱植田板金店の社長植田博幸さんは、平成29(2017)年に新しく小屋事業部を立上げ、小屋ビジネスを始めました。

さっそくその年の6月、岡山市古新田に全国最大規模(21戸)の小屋展示場「小屋の森」をオープンしたところ、1か月間の来場者が、何と300組に達したといいます。(写真2)

展示場の写真からも、さまざまなタイプのものがあること が分かります。大きさは4.95~9.99 ㎡(3~6畳相当)、間口は2.3~5.46 m、奥行きは1.820~2.275 mだとあります。

この大きさなら駐車場や廃校の再利用、庭の一隅の活用、さらに売り場の拡張も可能です。内装次第で、洒落たオフィスや売店、スタンドにもなりそうで、夢が湧いてきます。

10 ㎡ 未満は、原則として建築基準法上の確認申請が不要なので設計上も自由が利き、バリエーションを豊富にできます。そればかりか、低価格で提供できるのだといいます。

そんなわけで、耐候性・防水性に優れた材料を構造材、屋根材、外壁材に使い、内装も本格的です。通常300万円程度のものが60万円程度から提供できるとあり、魅力的です。

現在は社員50人に、専門の職方が80人ほどいます。また新しい支店や展示場の開設にも前向きで、平成30(2018)年度末の年商は11.8億円を超えました。立派なものです。

(写真2)
岡山市古新田に設けた展示場「小屋の
森」(魅力的な小屋が21戸も並ぶ国内
最大の展示場。)
[㈱植田板金店の提供]
大金持ちになる才能

建築板金は、雨が降ると現場仕事ができず、生産性が向上しませんし、技術の向上も図れません。そこで雨天時の小屋の生産は、屋内で行うようにシステムを変えました。

天候に関わりなく継続して作業が続けられるのなら、技術の向上とともに収入も増え喜ばれます。こうした環境整備で人材確保に成功しているのです。これは注目に値します。

完成した小屋は、トラックに積んで現地に運び、設置するだけという方式は、注文者に対する納期厳守、ヒノキのような高級材の採用など、利点が多いのです。 (写真3)

(写真3)
完成した小屋を工場から現場にトラックで直送
(悪天候でも工場で作り上げ、トラックで設置場所に運ぶ。)
[㈱植田板金店の提供]

新しいニーズを見出し、生産方式まで改革し、顧客の希望に沿うようなデザインに挑んでいるという説明を聞くと、誰しも新しい時代の庶民感覚を想い、嬉しくなります。

展示会への来会者も、初めは40歳代が多かったのが、次第に50~60歳代に移って来ているという話なのです。この辺にも、時代の推移を感じざるを得ません。

今後の目標は、2020年2月期に年間180棟売り上げたいというものです。岡山の本社工場と仙台支店、それに提携企業各社の連携で、この目標を達成したいとのことです。

新しいニーズが出現する中には、必ず庶民パワーが伏在しています。そこに目を注いで、新しい市場と生産システムを創り出し、社会に提供するのは常に若い世代の役割です。

そうしたわけで平成30(2018)年5月に中国地域NBC総会で、㈱植田板金店社長植田博幸さんに平成30年度第26回中国地域ニュービジネス特別賞が贈られたのでした。(写真4)

(写真4)
新しく小屋ビジネスを始めた
㈱植田板金店の植田博幸社長
[㈱植田板金店の提供]

【参考資料】
㈱植田板金店のホームページ
http://www.uedabk.jp/

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経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2019年5月15日掲載

Copyright Chugoku Bureau of Economy,Trade and Industry.

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