エッセイ│てくのえっせい 389

夢が湧くオーロラと満天の星

顔写真

広島工業大学名誉教授
中山勝矢

カナダにいた若いころ、オーロラを見に誘われたことがあります。オーロラは北緯60~70度あたりに出るため、日本では見るのが無理。それでなお、好奇心が湧きました。 (写真1)

(写真1)形の定まらないオーロラの例(星と違い、壮大な自然のドラマだと思えば許せるものの出現が明確でなく、撮影に苦労が多い。)[筆者作成]

案内されて見上げると、空の中ほどに光を帯びた薄雲があり、ゆっくりと動いているだけです。予備知識にあったベルト状やカーテン状ではなく、絵に描く気にもなりません。

科学的には太陽から噴出された高速の帯電粒子が地磁気に捉えられ、空気分子との衝突で発光するとされています。動きは緩慢で神秘的でしたが夢の世界に誘われませんでした。

アラスカでも空振り

50年ほど前、確か1965年の夏、国際会議に出るため羽田からニューヨーク行きの直行便を探しましたが、どれも給油でアラスカのフェアバンクスに1時間留まるというのです。

地図を開くと北極圏に間近です。ここなら素敵なオーロラに出会えるかもしれない。20時到着で、出発は25時間後の翌日21時と決め、一泊観光を試みました。(写真2)

(写真2)磁北極を中心にオーロラのよく現れる楕円状のオーロラベルト(磁北極と地球の北極とは一致しない。アラスカのフェアバンクスは下の方に見える。)[筆者作成]

ホテルへの途上、同僚とレストランに寄ってサーモンを注文。何とそれは三枚に下ろした片身をローストしたもので、全員日本人のウエートレスのうちの一人が運んできました。

大皿に横たわる大きなサーモンにも驚きましたが、遠く離れた小都市のフェアバンクスに、ウエートレス全員が日本から働きに来ているとは、目から鱗の想いでした。

遅刻を懸念して翌日夕刻に空港に戻りましたが、日没後に山の端まで全天で輝きだした星の見事なこと。駐機している機体の先まで自由に行けて星を仰げたのには感激しました。

オーロラは気まぐれです。その日はいくら探しても見つかりません。見栄えのよいオーロラに出会うことを期待して来たのに、またも空振り。歓迎は静かに輝く星ばかりでした。

終戦の年の春から夏は、絶え間なく空襲の気配が続き、屋外は無灯。やむなく真っ暗な縁先で天に散らばる星を眺めていました。戦時下でも、律儀に星は全天に輝いていました。

大熊座やオリオン座などはプラネタリウムで前からお馴染でも、細かい星や銀河の姿は別です。アラスカの空港で星を眺めながら、戦時中に母と見た夜空が蘇ったのでした。

摩天楼の立ち並ぶ大都会の生活では空は狭く、月も星も見ることがないといった人がいます。感性が失われ、漠々とした寂しい人たちの吹き溜まりになりそうな気がします。

“星取県”に籠められた想い

わが国の宇宙開発は、発足の段階から国会の決議「平和目的(非軍事)に限る」に縛られてきました。ところが宇宙基本法が平成20(2008)年に成立してからは、様変わりなのです。

一番大きな変化は安全保障での活用です。さらにそれと並行してビジネス的な発想で宇宙開発を進め、広く経済振興や地域振興に役立てようという考え方です。

宇宙の産業利用は今や世界的な流れです。わが国でも画期的な発想が欲しいと考えて中小企業や起業家が「中小・ベン チャー宇宙ビジネス研究会」を作り、議論を重ねています。

その懇親会で「満天に輝く星を見ていると宇宙に行きたくなりますね」と口にしたら、すかさず鳥取県庁の武良佑介さん(注)に「星なら鳥取砂丘でどうぞ」と誘われたのです。

夏の夜、あの広い砂原に腰を下ろし、満天の星と向き合って空想に耽るのも悪くないなという気になった途端、「星取県」と銘打った資料を見せられたのでした。(写真3)

(写真3)鳥取砂丘でのローバーの実証試験(企業との連携協定の下に行われた月面探査用4輪車とその試験場面)[鳥取県庁提供資料より]

「天候がよくないとね」といったら、「蟹取県」といわれる程ベニズワイガニの漁獲量は全国一。温泉もあり、天候を待つ間も十分に楽しめますと説得するではありませんか。

観光の先に、宇宙産業振興を見据えた事業として鳥取砂丘でのローバー(月面探査用4輪車)の試験、人材育成と若者回帰やスペースポート(宇宙港)建設も検討中とあります。

いまでは似たような計画が北海道大樹町、和歌山県串本町など、幾つかの地域から聞こえてきます。夢のある未経験の課題で、熱意のある若い世代を引き付けたいのでしょう。

これらを単に夢の夢だと切り捨てては終わりです。携帯電話も宅配も、そして人工知能さえも、ある時までは空想でした。それが今では日常使うシステムに育っています。

若者も老人も、都会に腰を据えてしまわずに、ときには満月と全天に輝く星、それに天の川や流星などと向かい合って未来を想い、さまざまな夢を心に描く機会を持つべきです。

(注)武良佑介さんの所属:鳥取県商工労働部商工政策課

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経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2019年3月4日掲載

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