エッセイ│てくのえっせい 386

サーモンの養殖で狙う地域振興

顔写真

広島工業大学名誉教授
中山勝矢

回転ずしで、最近はマグロの握りが減り、その代わりなのかサーモンが増えているような気がします。サーモンと書くのは、鮭だと塩鮭を連想するからなのでしょう。(写真1)

(写真1) 上の写真は運ばれてくるサーモンすしの皿
下の写真で赤い皿はサーモン、黒い皿はマグロ[いずれも筆者撮影]

かつては新年が近づくと新巻きや筋子、イクラを買い込んだものです。今日その慣習は廃れ、口にするサーモンはもっぱら季節と関係のない寿司ネタばかりのような気がします。

スーパーの魚コーナーでも、庶民に相応しい値段で冷凍の切り身サーモンが売られていて、ノルウェー産とかチリ産と表記してあります。今や国際市場の商品なのですね。

タンパク源の確保

好奇心を持って資料を見ていたら、ノルウェーはサーモンの養殖でトップランナーだとありました。その結果、わが国にも適切な価格で多量に輸出されて来ていると思われます。

かなり前ですが国内で漁業関係の養殖場に案内された覚えがあります。牧場による畜産と同様に、蛋白源を魚に依存する国が魚に力を入れるのは当然です。しかし問題も多いのです。

人間も誕生直後は母乳かミルク、やがて離乳食を経て成人の食事に近づきます。魚も同じで卵から孵ったばかりの幼魚の段階では特別のプランクトンが必要なのです。(写真2)

(写真2) 右側が種苗と呼ばれる稚魚で左は成魚(大型魚でも種苗でも生産システムの提供が可能という)[(株)鳥取林養魚場の提供]

さらに育成段階の歩留まり向上を狙って水の汚染防止、水温の管理、病原菌の除去など様々な問題が研究されてきました。その結果、大規模の養殖プラントも作られています。

しかし古くは、海上に設けた生簀で成魚を育ててきました。海水の浄化のためのかけ流し、荒天時の成魚の損失、破損した生簀の修理等、まだ多くの問題が残っています。

2018(平成30)年度の中国地域ニュービジネス特別賞には、この問題に挑んだ鳥取県東伯郡琴浦にある(株)鳥取林養魚場の萩原岳人社長が選ばれました。(写真3)

 
(写真3) (株)鳥取林養魚場の萩原岳人社長[(株)鳥取林養魚場の提供]

ポイントは地下水を使用した陸上循環濾過養殖です。ギンザケ養殖で他社に先駆けて商用化に成功したのです。先頭を行くノルウェーを超える事業として評価されました。

親会社の(株)林養魚場は福島県の白河にあり、養殖大手の企業です。ノルウェーの状況を踏まえた特許を取得し、娘婿を社長に、平成28(2016)年この事業を始めたとあります。

鳥取を本格的な生産拠点に選んだのは、こうした技術で優れた成魚が育っても、今の状況では「フクシマ」産というだけで風評被害を受けかねない懸念からだ、と述べています。

期待に応える計画

この養魚場は孵化棟と育成棟の2棟からなり、地下水を使う室内での循環濾過方式によりギンザケの養殖を行います。水の管理が適正なら、5月以降も飼育が可能です。(写真4)

(写真4) 育成水槽内を泳ぐギンザケの幼魚(地下水を使用した陸上循環濾過養殖システムによる1㎥当たり100kgという高密度育種の状況)[(株)鳥取林養魚場の提供]

ビジネスの将来展開からいうと、荷の搬入搬出は事前に十分に検討しておくべき課題です。また別に工場管理の資材などの搬入搬出もスムースであって欲しいわけです。

こうした計画を知った鳥取県は、水産課に水関係のデータなど幾多の資料を用意させました。検討を重ね、運送の便なども考えた末、琴浦町に決まったのだそうです。

卵から孵化し成長したスモルト(海面用養殖用種苗の個体)はニッスイグループの弓ヶ浜水産(株)にも提供しています。その他に提供したとしても、年間255t(約85万匹相当)の育成が可能な設備です。

さらに成魚まで育てて出荷できる能力が345t(10万匹相当)ありますから、近い将来、楽に20万匹を超す成魚のギンザケが、季節を問わず出荷可能になります。

議論の末、工場のプラントを漁港内に建てたので、船を使った大量出荷が可能になっています。これは同業他社と比べたとき、大きな利点になるはずです。

将来は、自社で鮮魚の加工、製品開発、飲食業などといった6次産業への展開も考えているとのこと。夢は大きくて、話を聞けば聞くほど嬉しくなり、拍手したくなりました。

今日、地方創生は国全体の大きな課題です。その分野を先導する技術を持つ企業を核にして、生産物を国の内外に捌き、明るい未来を確信できるようになりたいものです。

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経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2018年12月3日掲載

※2018年12月6日一部修正

Copyright Chugoku Bureau of Economy,Trade and Industry.

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