エッセイ│てくのえっせい 379

ジャムとマヨネーズが兄弟分!

顔写真

広島工業大学名誉教授
中山勝矢

パン食がこんなに普及する前、大方の人の朝食は卵かけご飯や納豆、焼いた塩鮭に海苔でした。それが今ではバターやジャムを塗ったトーストが普通になっています。(写真1)

(写真1)スーパーの棚に並べられたアヲハタマークのジャム(著者撮影)

若い頃、オタワでカナダ人の家庭に下宿していたことがありました。秋になると多量の果物を買い込み、ジャムやマーマレード作っていました。つまりそれは越冬準備の一つ。

白菜を漬けるようなものです。果物と砂糖を大鍋に入れてグズグズと煮詰め、冷まして瓶に詰める作業が続きます。塩で保存するか、砂糖で保存するかの違いなのです。

感激した品への挑戦

子どもの頃のマヨネーズは、決まってキユーピーでした。このキユーピーマヨネーズとアヲハタのオレンジマーマレードとが、何と同じ人の夢から生まれた商品だと知り、驚きました。

それは、中島董一郎(なかしまとういちろう)さんです。1883(明治16)年愛知県に生まれ、1907(明治40)年に水産講習所(今の東京水産大学)を卒業、農商務省の実業練習生として渡欧されました。

そのとき英国でマーマレードやジャムを口にし、帰りにアメリカに渡ってマヨネーズに出会い、栄養価が高い上、素敵な味わいに魅せられたとあります。

それで中島さんは自国での生産を決意されたのです。この夢の実現のため、帰国後に(株)旗道園を立上げました。マヨネーズの工場は東京でしたが、マーマレードの生産は広島でした。

良質なジャムには新鮮な果物が多量に入手できる必要があります。瀬戸内海周辺が柑橘類の産地であることに着目し、広島県竹原市忠海町にジャム工場を設けたのでした。

そして旗道園の社長には、水産講習所後輩で広島県大崎下島出身の廿日出要之進(はつかでようのしん)氏を指名し、経営に当たらせたとあります。

初期の頃、密封性のよい良質な瓶が入手できず、砂糖で煮た果物は缶詰でした。しかし残念ながら中が見えず、商品価値が劣ります。戦後は密封式のガラス瓶になっています。

これらの商品にはブランドとしてアヲハタを付け、製造会社の名もアヲハタ(株)です。それはオックスフォード大学とケンブリッジ大学のボートレースで見て感激した旗なのです。

一方で中島さんは、マヨネーズの国産化にも努めました。つまりマヨネーズはキユーピー、ジャムはアヲハタと呼ばれますが、いずれも中島さんが産み落とした兄弟なのです。

現在はジャム類だけでなく、キユーピーブランドの調理商品の製造も行い、従業員数540人強のアヲハタ(株)だけで売上高220億円に達しています(2017年11月期)。

進化するジャム

素人が鍋で砂糖と果物を煮続けたら、中身の温度は次第に上昇し、90℃にも100℃にもなります。水分を飛ばして腐敗を防ぎたいのですが、貴重な香りも蒸発して失われます。

減圧下で加熱するのなら中身の温度は抑えられ、効率よく濃縮できるという技術を導入し、1954(昭和29)年にバキュームパンと呼ばれる真空濃縮釜が設備されました。

減圧して蒸発させると、水蒸気は大気圧のときの何百倍にも何万倍にもなりますから、真空ポンプも装置全体も大きくなっています。(写真2)

(写真2)バキュームパンと呼ばれる真空濃縮釜(日本真空工業会機関誌「真空ジャーナル誌 2017年11月」から引用)

技術者の説明では、できるだけ低温で濃縮させたくて、最初は80℃でしたが、最近は60℃以下でやっているし、時にはもっと低いときもあるという話なのです。

試行錯誤の結果、原料に冬ダイダイの苦味、夏みかんの酸味、ネーブルオレンジの甘く芳醇な香りを配合しています。これに砂糖を加え、加熱段階に移るわけです。

最適に原料を配合しても、加熱温度が高いと香りも風味も逃げてしまいますから、途中で捉え、加熱操作の終了段階でジャムに加えてフルーティな香りづけをします。(写真3)

(写真3) 新しい香り戻し方式の説明図 (濃縮時に排出されて来る香り成分を集めてジャムに戻す方法)(日本真空工業会機関誌「真空ジャーナル誌 2017年11月」から引用)

最近は糖度の管理も必要です。腐敗させずに低糖度にすることは易しいことではありません。1970(昭和45)年には甘さの少ない糖度55度のジャム「55ジャム」の商品化にも成功しました。

素晴らしい先輩がいたことを知り、誇らしい気持ちです。大凡100年前です。海外に行き、自分の感覚で素晴らしいものを見つけて社会的遺産となる商品群を作ったわけです。

東京大学弥生キャンパスには2010(平成22)年12月に、ご遺族のご芳志で、通称、中島董一郎記念ホールと呼ばれるフードサイエンス棟ができました。ぜひお尋ねください。

未来は暗いなどという風潮に惑わされないで、夢を見ること、そして時間をかけても夢を実現すること、躊躇せずに新しい技術を導入することを心がけようではありませんか。

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経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2018年5月7日掲載

Copyright Chugoku Bureau of Economy,Trade and Industry.

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