エッセイ│てくのえっせい 373

世界津波の日をご存知ですか

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広島工業大学名誉教授
中山勝矢

突然「11月5日は何の日?」と聞かれて答えられる人は滅多にいません。最近来た(独)国際協力機構(JICA)の広報誌ムンデイ(mundi)の10月号に説明が出ていました。(写真1)

(写真1) (独)国際協力機構JICAの広報誌ムンディ10月号(表紙は災害後に再会を喜ぶ人々、資料はJICAの提供)

国連総会が2015年12月、全会一致でこの日を「世界津波の日」に決めました。それは江戸時代末期に南海地震と大津波が襲った1854(安政)年11月5日に因むとあります。

世界の災害はさまざまです。地域によって異なり、地震・地滑りや噴火があり、台風や洪水から干ばつまであるわけですが、多くの死傷者が出て経済が破滅するのは同じです。

浮沈式の生簀

フィリピンでも、台風の被害は少なくありません。東部のレイテ島とサマール島などを襲った2013年11月8日の大型台風は瞬間風速90m、高潮は5~6mに達しました。(写真2)

(写真2) 大型の台風に襲われたフィリピン東部のタクロバン市周辺(黒塗り部分はJICAプロジェクト対象地区、資料はJICA広報誌ムンディから引用)

その結果、死者と行方不明者が約8000人、損壊した家屋は約114万棟に上ったとされていますから、想像に絶するものがあります。わが国もすぐに緊急援助を実施しています。

でも直接的な支援だけでは足りません。将来を考えた災害に強い地域づくりが不可欠です。復興計画策定、生計回復や公共施設復興支援などのJICAプロジェクトも始まりました。

現在被災地で進めているものの中には、災害に強い養殖業の再興があるといいます。この取り組みには、東日本大震災の被災地と広島県の漁網メーカーが尽力しているとあったのです。

一つはフィリピンの大衆魚ミルクフィッシュで、もう一つは牡蠣だとあります。ミルクフィッシュの養殖には、新しく「浮沈式生簀」が導入されました。

これは、広島県福山市にある漁網メーカー日東製網株式会社がクロマグロ用の生簀として開発したものなのです。特徴は、生簀を自在に海に沈めることができる点にあります。

台風の多いわが国でも、以前から生簀の保全には苦労を重ねてきました。台風や津波のたびに流されたのでは経営が成り立たず、養殖魚ともども流されたのではたまりません。

これまでの研究で、海の中に沈めれば波の影響が減らせることは分かっていました。実績を積むために、以前からパラワン島で設置していたことが役に立ったといいます。

現地に合わせる

開発に携わっていた細川さんは、割高にならないように、資材は現地で入手できるもので造ることに努めたと説明していますが、教えられるところが少なくありません。(写真3)

(写真3) 海原に並ぶ養殖用の生簀(お互いに結ばれていて、台風や高波のときは浮かせたり沈めたりできる生簀、写真は日東製網株式会社の提供)

生簀を沈めるのに使うコンプレッサーにしても日本製でなく、現地の人々が使い慣れている漁船エンジンで動くものにするなど細かい心遣いをしているのには頭が下がります。

こうした浮沈式の生簀は2014年10月に4か所の被災集落に合計40セット設置されました。高波も発生した次の台風の際は、従来の竹や金属製生簀がほぼ壊れた中で無事でした。

牡蠣養殖に関しては、宮城県東松島市が支援しているといいます。その場合、研修が主になり、実際の現場で言葉の違いを克服しながら、勘所を会得してもらっているそうです。

日本での研修では、実際に養殖場や加工場に来てもらうだけではなく、現場に人を受け入れ、一緒に作業をして一つ一つの作業を具体的に身に着けてもらっているといいます。

養殖場の場合でも、受け入れ側の地元漁師たちとともに、養殖に適した場所の選び方から、良い稚貝の選択、ロープにできるだけ多くの稚貝がつく方法まで伝えているわけです。

その結果、大きなサイズの良質な牡蠣が取れるようになり、地元レストランにも出荷されて評価も上がり、人気メニューになっているという夢のような話も生まれてきています。

災害からの復旧はただ元に戻すのではいけません。投資が失われることなく回収でき、技術導入により生産品の質が向上してこそ生計は豊かになり、雇用も増すことになります。

蓄えられた知恵、積み重ねられた技術、力を合わせるという文化、こうしたものは死蔵せずに世界に提供していくべきです。そう考えるならば、わが国の未来は輝いて見えます。

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経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2017年11月2日掲載

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