エッセイ│てくのえっせい 372

船の機関室を図面にする

顔写真

広島工業大学名誉教授
中山勝矢

平成26年に起きた広島市の土砂災害で、3次元レーザースキャナーをドローンに積み、林の中の崖崩れのような情報を収集した話を紹介しました。(平成28年11月号に掲載(PDF形式:545KB))

ドローンというのは、遠隔操作で飛ぶ無人ヘリコプターですが、上空からの写真では、立ち並ぶ樹木しか撮れません。ところが強力な赤いレーザー光なら地面まで届くのです。

強いレーザー光をごく短時間照射し、戻る光の時間差から反射点の座標を求めてコンピューターの中に3次元画像を作っていきます。この技術に新しい応用が生まれました。

生物汚染の問題

ここで紹介する3次元(3D)レーザースキャナーは、決めた位置にスタンドを立てて固定し、そこから対象物に対して毎秒百万発ものレーザー光を順次照射していきます。(写真1)

(写真1) 3次元レーザースキャナー(スタンドに固定し、上下に305°、左右に360°回転させることが可能)

広い空間の情報を取得するときは、水平方向に360度、 垂直方向にはスタンドの部分を除いてほぼ305度、首を振って広くデータを取り込める最新鋭の計測器なのです。

貨物船は荷を下ろした後、バランスを取るためバラストタンクに水を入れています。港ごとに莫大な水の出し入れをする結果、海域を超えて生物汚染を起こしてきました。

2004(平成16)年に国際海事機関で「船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(バラスト水規制管理条約)」が採択され、2017(平成29)年9月8日に発効しました。その結果、船舶には、バラスト水を処理する装置の搭載が義務付けられました。そしてこのために、何と5年間に数万隻という船の改装工事が必要になったのです。

船の機械の多くは狭い機関室に詰め込まれ、配管で結ばれています。中には図面がない場合もあり、繰り返し船を訪れては実地調査と実測により図面を作成するのが普通でした。

そうでなくても人口減で作業者の確保が厳しい造船業界にとっては、技術面で苦しいだけでなく、コストが上昇して国際競争力を失いかねません。

そこで3Dレーザースキャナーを導入したと、(有)柏原工業の代表取締役 柏原信彦さんはいわれます。この切り替えで、訪船調査は原則1回で済むようになりました。(写真2)

(写真2) (有)柏原工業 代表取締役 柏原信彦氏
海外展開

(有)柏原工業は、1962(昭和37)年に因島市で造船関連の鉄工所として発足した企業です。1978(昭和53)年に法人化、1989(平成元)年に本社工場を完成しています。

船にレーザースキャナーを持ち込んでデータを取り、事務所で解析するわけです。コンピューターの中の3次元データから全体像も配管の寸法も読み出せるのです。(写真3)

(写真3)左上の現物から3次元レーザースキャナーでデジタルデータにし、そこから現物の画像(左下)を作成。(データから配管の位置もサイズも求めることが可能)

装置や配管の現状を把握することで、機器や配管がお互いに干渉しないように設計することができるのだといいます。これでどれだけ手間が省かれるか分かりません。(写真4)

(写真4)現状を再現した3次元の画像を使った設計例。(機器や配管の相互干渉を抑え精度の高い設計が可能になった。左右の写真の青い配管に注目)
※写真は全て(有)柏原工業からの提供

ただその計算は膨大で、残念ながら人件費の高いわが国で採算を合わせることは難しいのです。そこで現在作業は、ベトナムで進めているといいます。

すでに2006(平成18)年、将来を考えてホーチミン市にベトナム事務所を開設、7年後には法人化しています。船に関するノウハウは他のプラントにも転用できるとあります。

現地法人では、日本語と日本の業務を熟知したベトナム人が取り仕切っています。いまや3Dモデル関係の情報処理に限らず一部の製品の製作まで行っていて、夢があります。

新技術の積極的な活用と将来を夢見た海外展開には声援を送りたくなりました。単なるモノ造りから前に進み、製品から逆に図面作成を試みるなど、発想が豊かなのです。

そういうわけで(有)柏原工業の柏原信彦社長さんは2017(平成29)年春に、第25回中国地域ニュービジネス優秀賞に輝いたのです。

世界的に期待される今後の社会は、人口が安定したものになってほしいと思います。それには、あらゆる分野で情報化が進み、新しい発想が湧き出て来る必要があります。

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経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2017年10月2日掲載

Copyright 2017 Chugoku Bureau of Economy,Trade and Industry.

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