エッセイ│てくのえっせい 366

エコな窓ガラスに挑む

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広島工業大学名誉教授
中山勝矢

古い資料に、1851(嘉永4)年ロンドンで開催された第1回万国博覧会で水晶宮が作られたとありました。「えー、水晶で宮殿を造った?」と、早とちりした記憶があります。

場所はハイドパークで、原語はクリスタルパレス。訳した人は内容がよく分からず、クリスタルを水晶としたのでしょう。博覧会後には解体、移築できる大展示ホールでした。

公募されたデザインの優勝者は農夫の息子J.パックストンで、デボンシャー公の庭園管理をしていたためか、それは巨大な温室といった感じのガラス張りの建物だったのです。

時代の先駆者

いまではガラス張りの建築物は珍しくありません。でも当時は画期的で、まさに第1回万国博覧会に相応しく、人々はこの突飛な建築物に目を見張ったのでした。(写真1)

(写真1)壁面をガラスで覆ったモダンなビル
(東京都府中市で著者写す)

まず屋根の重さを支えるため3,300本の鋳鉄製の柱を立て、周囲の壁はすべてガラス張り。面積77,000m2、高さ18mの建物に使ったガラスの総面積は84,000m2もありました。

その上そこで使われたガラスの量は、なんと当時の英国における生産総量に近いものだったというのですから、聞いた人々は驚いたのに違いありません。

建物の重量は鉄骨で支え、外壁全面に板ガラスを貼るという斬新な発想はインパクトが大きく、新しい時代を切り拓くという万国博覧会の主旨に沿うものでありました。

水晶宮は、近代が生み出した工業的生産材を構造的にも意匠的にも駆使した最初の建築物として高く評価されました。しかし一方で、ガラス板の断熱性の問題が残ったのです。

石と違いガラスでは、夏は外から熱気が入り、冬は寒気が入ってきます。見映えがよくても、熱の出入りを補うために冷暖房費がかさむのでは普及しません。

熱を遮る知恵

現在建築用のガラスは10m2に及ぶものがあります。自動車のフロントガラスでも2㎡に近いものもあるという状況で、世界的に生産技術を競い合っています。

エネルギーの出入りを遮断する手軽な方法は、ガラス表面に熱線を反射する膜を作ることです。いわばサングラスがその一例ですが、建築では意匠性に問題が出てきます。

もう一つの方法は二重窓にするとか、カーテンやブラインドを設けることです。日本家屋でガラス戸の外に雨戸を置くのは、同じ効果を期待しているのでしょう。

でもこれらは効果があっても目障りだし、防火の点でも好ましくありません。そこで2枚のガラスを合わせた窓ガラスが作られました。複層ガラスと呼ばれています。(写真2)

(写真2)複層ガラスの構造説明図
(2枚のガラス板の周囲は封止剤で止めてある。隙間には乾燥空気またはアルゴンのような希ガスを封入し、ガラスの表面には特定の熱線を反射するような被膜が作られている)

2枚のガラスの間には、乾燥空気やアルゴンのような希ガスが封じ込まれています。湿気がなければ、冷えてもガラス面に霜が付かず、視界を遮る心配もありません。

封じ込まれた空気やガスが対流を起こして熱を運んだのでは困ります。研究の結果、対流が起きないためには隙間を12mm前後に保つのがよいことも分ってきています。

さらに進んで、ガラス表面の結晶構造を変えて熱線が通りにくくするとか、一部を反射させて戻すとかいった様々な研究が、この数十年の間、重ねられてきました。

大型の真空室で、大面積のガラス面に極めて薄い被膜を高速度で作る方法も開発されています。さらに効果を増すため、ガラスの表裏を異なる物質の被膜で覆うこともあります。

窓ガラスから出入するエネルギーの節減効果は、無視して済むようなものではありません。コスト削減のためだけでなく、地球温暖化対策としても関心を持つ必要があります。

被膜を多層化する試みだけでなく、射し込む光が強くなると、ガラスが自動的に白濁し、エネルギーの透過を抑制する方式も提示されていて、技術開発は賑やかなのです。

こうした高性能の窓ガラスが市場に提供され、どんどん普及していることは、住宅展示場の展示ハウスからも分かります。今や、新しい家の9割に使われているといわれています。

<参考資料>

ジェームズ・トレフィル著、出口 敦訳
「ビルはどこまで高くできるか 都市を考える科学」
(翔泳選書 1994)
<お知らせ>
中国新聞社から、このエッセイの最近の記事をまとめた「技術とロマン PartX」が先月刊行されました。中国新聞社または取次店で扱っています。

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経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2017年4月14日掲載

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