1. ホーム
  2. ちゅうごく地域ナビ
  3. てくのえっせい ―過去の記事―
  4. 裏道を走りつつ思うこと
てくのえっせい440

裏道を走りつつ思うこと

2023年6月1日
広島工業大学名誉教授
中山勝矢

 車をやめて自転車に変えたら、視野が広がり、楽しみが増えました。初夏の緑あざやかな木々、路傍の空地に咲く名も知れない花、どれにも溢れる生命を感じます。(写真1、2)
 表通りを避け、できるだけ混まない裏道をたどりますと、しばしば珍しい花に出会います。他にも、新しい巣穴に忙しく出入りする蟻の集団も見ることもあって飽きません。
 春といえば桜が頭に浮かびます。梅の方が先で白い花を付けますが、3月から4月の頃は桜の満開に譲り目立たちません。5月末にやっと色づいた赤い実が見られます。(写真3)

ウメとサクラ

 ところで日本の気象庁は、例えばソメイヨシノなどの開花日を全国的に調べる事業を長いこと続けてきました。国の機関が全国規模で単独に実施した例は世界で珍しいのです。
 予算の関係で今後は、仕組みを改め、国立環境研究所が担当し外部の人の力も借りて続けるそうです。でもこれまでのデータから平均の開花日や、その変化を求めることはできます。
 新潟地方気象台が試み、1972年から1981年の10年間の開花日は平均で4月13日だったのが、2013年から2022年には4月4日と1週間ほど早まっていることを発表しています。
 初夏の到来が早まっていることを、ソメイヨシノという生命体はきちんと感じ取り、対応してきたことを意味します。考えればこれは、驚くべきことではないでしょうか。
 他に雪解けのおおよその日を比べた話があります。1975年から1980年には5月27日だったのが2016年から21年には5月4日になったとあります。温暖化の為だという議論もあります。
 われわれも承知しているように、自然環境は毎年同じではありません。そうした環境を動物も植物も、またバクテリアまでも耐えて生き延びてきたことに目を注ぎたくなります。
 梅は、花が散った5月頃に緑の実をつけ、次第に赤みを帯びていくのに気が付きました。自転車なので、こうした自然の営みを追いかけることができ、宿題は増えるわけです。
 しばらくすると黄色くなった実が落ちてきます。それを洗って干し、塩漬けにすれば梅干ですが、実を削いで甘く煮つめてジャムを作ってくれた人もいました。


(写真1)鮮やかな新芽の緑に彩られた樹木「住宅団地周辺の木々、秋には葉は落ち、春にはそれが回復するのです。執筆者撮影」

(写真2)路傍に咲く名の知れない草の花「暖かくなり、路傍のくさむらに芽を出し、花を咲かせる一連の植物。執筆者撮影」

(写真3)少し赤みが差した鈴なりの梅の実「春には、新しい枝にこのように密集して白い花が咲き、数か月して実が色づく。執筆者撮影」

七変化の紫陽花(アジサイ)

 桜が散ると、遅れるわけにはいかないとばかり、紫陽花の蕾も大きくなってきます。そして6月の声を聞く頃、色とりどりの大きな派手な花が路傍を飾ってくれます。(写真4)
 6月といっても紫陽花には分からない話でしょう。植物の生活を活性化する何らかのシグナルを環境から得て、紫陽花の様々のシステムが動き出したように見えます。
 毎日見ていると新芽が急に大きくなり、先端に蕾の塊が出てくるのが分かります。注意していないと分からない程度の変化ですが、形が変わってくるので気が付くわけです。
 最初は、蕾は白です。やがてそれが薄く赤を帯びてくるので、ピンクに見えます。同じ株から出ているのに、茎の先に着く蕾の色に少し差があることに気が付きました。
 蕾の塊の外側が赤っぽくなっています。理由は分かりませんが、一つの塊のなかに色の差が出てくるのです。赤が強くなった後、最後は青の花弁が多くなります。
 今日では、色の源はアントシアニンという化学物質であることが分かっています。土壌に含まれるアルミニウムの働きで体内において反応し、赤から青と七変化する花なのです。
 昔の人たちは、化学的なことは分からなかったとしても、七変化する不思議な植物として珍重し、関心を持っていたことは、古い歌や俳句、川柳などに見ることができます。
 日本の社会は、他にはない奇妙な植物、色変わりする七変化とそのまま受け入れてきたのです。関心を持って見ていると紫陽花はかなり長く、裏通りを飾ってくれています。
 裏通りは人も少なく、自然との交わりを思いながら自転車を走らせるのに適しています。生命体と環境の関係を考えるのに相応しい場所を見つけることができたと思っています。
 すべての生き物は、多かれ少なかれ変化する環境で生を全うしなければなりません。そのからくりを承知し、さらにその微妙な変化を観察できることは誠に嬉しいことなのです。


(写真4)咲き始めの紫陽花の花「花はまだ色がつかず、塊のまま開き始めている。執筆者撮影」

(写真5)薄紫の花を付けた紫陽花「薄紫色の花が、花の塊の周辺部に見られる。執筆者撮影」


ページ
トップ