エッセイ│てくのえっせい 375

元旦は時の結び目

顔写真

広島工業大学名誉教授
中山勝矢

明けまして、おめでとうございます。

何十回もお正月を重ねてくると、またかという思いから特別の感慨が湧かなくなります。しかしそれはいけません。

とかく理系の人は、時間は単調な一本の線で、どこにも屈折や結び目がないと考えがちです。ところが人間が介在する限り、時間をそんな簡単に扱うことはできません。

今年は平成の次の元号が示されるでしょう。明治、大正、昭和、平成と、それぞれに時代を特徴づける風景がありました。立ち留まって考え、新しい時代を迎えたいものです。

ふりかえって見る

元旦は、両親にとって滅多にない一家団欒を楽しめる貴重な機会だったのだろうと、今その風景を懐かしく思い返しています。戦争が迫る昭和の初期、家庭には平和がありました。

両親と子どもだけという家族構成は、大正から昭和の初めの若い夫婦にとって夢でした。元旦の祝い膳のあとの遊びは囲碁、将棋、麻雀ではなく、「いろはかるた」でした。

小さい子どもも楽しめるように、百人一首を真似た多くの「いろはかるた」が世に出ていました。そのうちの「犬も歩けば棒に当たる」は、日常の慣用句になったほどです。

少し大きくなった後は、百人一首や花札の遊び方も教わりました。花札の絵柄は物珍しくて興味津々。お金を賭けることなど知らずに、無心に遊んだものです。

とくに1月の20点札は、みどりと呼ばれる松の大きな新芽の間に丹頂鶴が振り向いて立っています。伯母の名前がみどりだったので、すぐ覚えてしまいました。(写真1)

(写真1) 花札の1月の20点札
(下半分の左右にある黒い塊がデザイン化された松のみどり)

百人一首は、歌を冒頭から読み上げますが、並べてある取り札には歌の下半分しか書いてありません。最初を聞いた瞬間、並んでいる札の中から該当する札を探して取るのです。

まず得意札を仕込まれました。歌の出だしが聞こえたとき決して人に盗られないよう、自分の前に置かれた一枚の札を一心に見つめていたものです。(写真2)

(写真2) 百人一首の練習用の札
(左上は下の句だけ書かれた取り札、右下は詠み人の名前と姿が描かれた読み札でそれぞれが百枚ある。取り札を広げ、取れた札の数で勝敗を競う)

内容の理解はさておき、子どもの集中力と参加意欲に訴えて歌を覚えさせるのは、驚くべき知恵です。こうして、札に書かれたかなりの数の和歌を覚えることができました。

札を読み上げる役もさせられました。独特な節回しで読んでいきますが、歌の深い内容までは分かりません。でもこの役によって和歌に親しみが湧き、近づけたのでした。

「明けまして・・」を考える

そのころ子ども心に気になったことがありました。それは新年のご挨拶でいう「明けまして・・」です。晴ならいいけど、雨だったらどういうのかなと 考えたものです。

先日、図書館で調べましたが、納得できる説明がありません。いすれも大晦日の夜が終わって新しく太陽が昇り始め、新しい年が始まったことを祝う言葉だという程度なのです。

外敵の侵襲が稀で、天候不順だけが生存の危機だったわが国では、元旦の朝、昇ってくる太陽に安堵し、お互いに「明けましておめでとう」と言いあったのでしょう。

わが国の神道では、今年も天候が荒れないで、豊作になることを祈るのが柱になっています。すべての幸いはその上にあると考えたのでしょう。

時代は進み、わが国でも数百年前から農作以外に商工業を営む者が増え、都市生活者が多くなりました。こうした状況では考え方も変わって当然ですが、説明は見当たりません。

江戸時代後期には庶民の間にも貨幣経済が浸透し、掛売りや月末の集金が普通になります。大晦日は夜遅くまで催促と集金に飛び回り、そろばん片手に勘定を締めていました。

結果が分かり、夜啼きそばを食べながら、一年を反省したはずです。戦いの終わった朝の「明けまして・・」には「明けたぞ、今年はやるぞ」の心意気が感じられます。

説明を探しながら私が心に描いた心象風景はこれです。晴雨に関わらず、明日がある限り目を凝らして、身の回りの問題と水平線の先にある未来に思いを馳せる必要があります。

漫然と前例を踏襲し、夢を語らず、方向を示さないのでは人も組織も腐っていきます。人には動物的な本性から、直感的に、また敏感に環境変化を感じ取る能力があります。

野性の生き物は環境の変化を知れば、生きていける場を求めるものです。植物でさえも、温暖化で作付けの適地が北に移り、聞いたこともない銘柄品が出てくる時代です。

元旦は結び目と考え、注意深く情報を集め、分析して新機軸を打ちだして前進すること、そして次の元旦にはみんなが笑顔で「明けまして・・」と言いたいものです。

※写真は全て筆者撮影

記事一覧に戻る

経済産業省 中国経済産業局 電子広報誌

ちゅうごく地域ナビ 2018年1月5日掲載

Copyright Chugoku Bureau of Economy,Trade and Industry.

ページの先頭へ戻る